佐久間健の執筆活動



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新聞寄稿(埼玉新聞 2008年11月18日-20日)

第二の公共事業 佐久間健の提言

上田清司知事の音頭のもと、県内への企業誘致が活発化。ホンダが寄居町に四輪の基幹工場(稼動予定2010年、年間生産能力二十万台)、小川町にエンジン工場(同09年)を建設するなど大きな成果を挙げている。さいたま市在住で、CSR(企業の社会的責任)研究の第一人、コミュニケーション戦略研究所代表取締役の佐久間健氏に、地方における大型企業誘致の重要性と、自治体との関係などについて寄稿してもらった。

第二の公共事業とは

第二の公共事業とは、公共事業のような要素を持ち、それ以上の効果と影響を持つ大企業の誘致による地域経済の活性化を図る事業のことを筆者はそのように言っている。

従来の公共事業は縮小の傾向にあり、拡大はない。地方自治体が自治の確立を目指すためには、経済的自立が必要で、企業の誘致は極めて有効な事業である。そして雇用の確保は地域を活性化する。私が第二の公共事業と呼んでいる大型企業の誘致の目的はゼネコンを中心とした公共事業の狭い領域から脱出し、地域住民、中小企業、商店街、地域社会と企業が一体となり、地域経済と社会の活性化を図ることである。その結果、税収などへの波及効果が期待できるところが従来の公共事業と大きく違う点である。

北海道はトヨタ系企業の誘致により地元の活性化を図り、また宮城県はトヨタ系の部品会社セントラル自動車(08年3月期現在売上高1431億円)の誘致に成功をした。 三重県亀山市のシャープ亀山工場は液晶テレビの工場として有名であり、シャープのシンボル的工場だ。見学者も絶えない。この工場は亀山市を全国区の有名市にした。 北九州は、トヨタ系列の自動車会社の進出により、財政基盤が安定し活性化した。長崎県の波佐見町にはキヤノンのデジタルカメラの工場ができ、従業員は千人を見込む。

寄居町にはホンダの四輪の基幹工場が建設され2010年に稼動をする。上田知事を中心とした誘致活動が実を結んだ。隣接する小川町にもエンジン工場の建設が進行中だ。この2工場の建設で埼玉県は工場の敷地面積ベースで全国1位になった。

第二の公共事業の特徴には従来の箱物と違い次のような大きな特長がある。

@国から予算をもらうのではなく、自治体自らの意思と行動で事業を創造していく自立型事業であること。このため行政が前向きで活発となる

A大きな工場が建設されることにより、地元建設業者への仕事が発生する以外の大きな経済的波及効果が期待できる。

B地元への直接・間接の雇用が生じる。特に自動車関連の会社は、1次メーカー、2次、3次と裾野が広く、大きな1次メーカーが来るとそれに合わせて、その協力会社も進出して、雇用が発生しその他の経済効果は大きい。部品工場の集団移転も期待できる。

C工場勤務者の住宅需要がでる。

D地元の中小部品メーカーにも努力しだいで大きな部品メーカーへの納入のチャンスもできビジネスチャンスが広がる。

E地元商店街も活性化する。ホンダは、社内に生協のような社内販売店を持たないので商店街にはメリットがある。

F税収の向上が期待できる。

G自治体や地域が企業に学ぶ学習効果が期待できる。

このような効果やメリットをものにできるように自治体は努力をすることが大切である。

第二の公共事業の誘致は自治体トップの仕事

第二の公共事業を誘致するには、県と地元自治体の努力が必要だ。次に外国の自治体の努力の事例を挙げてみた。大型の工場誘致の成功には、インフラ整備はもちろん、心から感動する受け入れ体制と行動が進出企業の地域選考に大きく影響をする。

トヨタのフランスへの進出時の地元の県と市の受け入れ体制は大いに参考になる。 フランスのバランシェンヌ市は今は直接雇用が2千人、間接雇用で5千人となり、フランスのトヨタ城下町となった。市はトヨタを受け入れるためにトヨタ社員の子弟のために、英語で教育が受けられる国際学級を設置したり、トヨタ従業員たちの住宅の世話をし、日本人向けの現地サービスマニュアルまで作成してトヨタを心から歓迎する準備をした。フランス語しか話さないといわれるフランス人でも企業の誘致には柔軟性を発揮し全力を注いだのである。バランシェンヌ市のあるノール県ではトヨタ担当の副知事まで置いている。企業誘致に成功した後も市のトヨタへの歓迎振りは凄い。年2回の歓迎パーティを開催している。日本人の想像をはるかに超える歓迎体制で迎えているのだ。

これに対しトヨタも現地従業員を大切にした雇用と接触の仕方、地域社会とのコミュニケーションを大事にしている。EU政府ではCSR(企業の社会的責任)として雇用の確保を非常に重要視している。この事例は自治体と企業とのコミュニケーションが最高にとれた優良モデルといえる。このような歓迎を国内で行うと、一部の人々や団体が企業のために行う癒着行為であると非難する傾向が、これは間違っている。このようなことでは企業の誘致は難しくなる。自治体の自立には、周囲も長期的な展望と戦略を持って考えるべきである。

誘致は国内の他県だけでなく、外国もライバルであることを強く意識すべきである。企業の国内回帰が見られる今、誘致には広い見識が必要だ。第二の公共事業は自治体の長の努力がものをいう。フランスの事例のように企業誘致は、自治体の長の重要な仕事であり知事や市長などのトップセールスがものをいう。

セントラル自動車の誘致は、北海道との熾烈な競争であったが、宮城県が誘致に成功した。インフラ整備と協力体制や人的資源の供給能力などが大く影響をした。当然企業への説得力ある情熱的なプレゼンテーションも重要である。

埼玉県の企業誘致は活発である。上田知事を中心とした企業訪問は約5千件になる。このような努力の積み重ねがホンダの誘致に成功したのだ。知事を中心のトップセールスが力を発揮した。この他カルソニックカンセイやタムロンはじめ上場企業などを含む約240社の誘致に成功したが、この実績は全国トップクラスである。

ホンダの誘致後の自治体の対応と責任

ホンダの寄居工場が基幹工場であることの意義は県や地元には非常に大きい。ホンダのシンボルだからだ。2010年に稼動するこの工場は生産能力は年間20万台で、小川町に建設中の新エンジン工場(09年稼動)と合わせ、エンジンから車体までを一貫生産する。小川工場と合わせた投資額は県内過去最大の約7百億円だ。新工場の従業員は約2千2百人で、一部は新規採用する。工場の新設に合わせ、自動車部品メーカー2社が既に熊谷、深谷市に進出を決め、さらに関連企業の集積が期待できる。埼玉りそな産業協力財団の試算では、稼動後の協力業者や他産業への影響など済効果は年間3136億円が見込まれる。これは従来の公共事業ではありえない。

埼玉県とホンダとのつながりは深く、本田技術研究所が和光市に移転した1961年以来で、本田宗一郎は人生の大半ををこの研究所で過ごした。宗一郎は地元との関係を非常に大切にしていた。

福井社長は新工場の位置づけについて「寄居、小川、狭山の3工場でホンダの技術力を飛躍させ、高品質で高効率な生産システムを確立し、世界の拠点にする」と抱負語る。新工場の設立で国内生産能力は年130万台から150万台に増強され、2010年の生産台数は450万台以上を見込む。

上田知事は「行政のすべての能力をかけてしっかりしたネットワークを構築したい」と力を入れる。津久井寄居町長も「町民の夢が実現し県北が活性化する」と喜ぶ。 世界に何十もの生産拠点をもつホンダの生産技術は国内の、基幹工場で培われる。寄居工場の存在意義は非常に大きい。

寄居工場は循環型社会における新しい工場を目指すグリーンファクトリー計画に基づいて運営される。工場の緑化、屋上の緑化など環境対策や地域との共生にも十分な配慮をている。省エネルギ―による稼動、廃棄物削減などが徹底して行われる工場だ。環境志向の強い上田知事と哲学的に一致する。大事なことだ。

ホンダの環境対応はCSR(企業の社会的責任)から言っても当然のことであり、県内企業のモデルとなるものだ。CSRは09年9月からISO化され企業に適応される。 ホンダのような自動車産業を持続的に県内に確保するためには、県や自治体として本気で取り組まなければならない課題がいろいろとある。

インフラの整備だけでなく、関連企業も進出しやすい状況を作り出すことが重要である。先ず、県も自治体もホンダが考えるCSRの意義をしっかりと理解していなければならない。そのうえで県としての人材の育成と供給体制である。自治体の環境対応レベルの向上、地元企業も納品企業になれるような研究開発と努力も大切である。宮城県では地元企業が部品の納品に成功している。ホンダと地域住民とのコミュニケーションも重要だ。またホンダから県民が学習することも大切である。これは他の企業にも当てはまることだ。このような努力が第二の公共事業を創造する力を生む。