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- 佐久間 健の執筆活動 : 新聞寄稿(生産性新聞 2008年3月25日)
CSR戦略の方程式とは,CSR戦略を成功させるための最も適切で効果的な考えである。CSR戦略は基本を踏まえることが重要である。基本とは企業理念、企業ビジョン、企業戦略とCSR戦略が合致していることである。企業理念には企業が社会に存在する理由が明記されており、それを実現することが企業の社会的責任を果たすことになる。目指すべき企業像がビジョンで、これを実現するために企業戦略がある。この企業戦略とCSR戦略が統括融合されているとCSRの遂行は日常業務の中で行うことがでる。先進企業と他の企業のCSRの違いはここにある。ベストプラクテイスといって他社の事例を採用しても、自分の企業には合わないとことが多い。それは企業理念も、ビジョンも企業戦略も違うからだ。先進企業はCSRの成果を出すための原則、CSR戦略の方程式をよく知っている。またCSR戦略はビジネス戦略であることを強く認識している。
CSR戦略の方程式が成功し、成果を上げるためにはさらに「4つの公理」が必要である。第1に「地動説的経営」で、これはステークホルダーの立場に立ち、経営を行うことである。これまでは企業中心的な「企業天動説的経営」であった。先進企業は企業の置かれる立場が大きく変わって、コペルニクス的パラダイムの大転換が起きていることを強く自覚をしており、これに気付いた経営者は自らの主導でCSR戦略を遂行している。第2に「CSRは社会適合戦略」である。CSRは社会の要望や潜在的要望を先取りし、自主的に対応していくことである。そうでなければ企業理念に謳う企業の存在理由を実現することはできない。どれぐらい自主的か、また積極的か、その適合度合いが企業の強弱を決める。環境保全も人権対応も時代と社会が要請しているものだ。第3に「CSRは企業利益の考えへの大変革」であり、CSRにおける利益への考えは従来と大きく違う。製品やサービスのライフサイクルの各プロセスにおいて,CSRが遂行され、それぞれのプロセスでステークホルダーに配慮をしながら得られるものがCSRにおける利益である。結果オーライではない。利益には経済的利益と社会的利益がある。社会的利益とは、企業の評価を得る、信頼を得る、ブランド価値が上がる、イメージが向上するなどである。これらは企業の経済的利益を上げる非常に重要な要素である。二つの利益が相互作用して得られるのがCSR戦略における利益だ。第4に「CSR戦略は理念(建前)と本音を一致させること」で、CSR戦略は建前の企業理念を実現することである。建前と本音は別であるという従来のご都合主義はCSRには不向きな考えだ。建前通りのことができる企業が強い企業となることができる。この4つがCSR戦略の公理であり蓋然性がある。企業理念からの一貫した流れと公理のことを総合してCSR戦略の方程式と筆者は言っている。CSR戦略が成功するためにはこの方程式に沿っていることが重要である。
CSR戦略の方程式を理解するにふさわしい企業が、トヨタ、キヤノン、ホンダ、リコー、アサヒビール、イオンなどの先進企業である。これらの企業の特徴は、企業理念にCSRの要素が包含されているか、企業理念がCSRの概念に合致し、それを実現していることだ。先進企業は企業理念がこのような位置づけになっており、CSR戦略の方程式は明快で、経営者が強い指導力を発揮しCSR戦略を遂行している。これらの企業の特徴は、強い企業文化をもっていることである。経営者と従業員のベクトルを一致させる共通の価値観が企業文化で、これは企業理念・ビジョン・企業戦略・CSR戦略の遂行に大きな影響を与える。