佐久間健の執筆活動



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新聞寄稿(生産性新聞 2006年3月15日)

トヨタのCSR戦略―その視点

『CSRをDNAとして自然体で受け継ぐ基本理念遂行
 〜ビジョン実現型の企業文化』

CSRが経営戦略の新しい潮流として注目を集める中、トヨタはCSRを声高に叫んではいない。それは創業以来、トヨタはCSRをDNAとして企業文化、従業員の素養、経営者の判断の中に自然体で受け継いできているからだ。トヨタは企業理念を基本理念と呼ぶ。トヨタではCSRが基本理念、ビジョン、地球環境憲章などの中に組み込まれており、企業戦略がCSR戦略となっている。

CSR戦略は企業を根底から強くする。それはCSRが企業の社会への適合戦略であるからだ。トヨタが強い企業になれたのはCSRの遂行度合が非常に高く、社会から受け入れられているためである。トヨタは基本理念遂行・ビジョン実現型の企業であり、全従業員26万人が全力をあげて、「愚直なまでに」これに取り組む企業文化がある。

ダノン(フランスの食品会社)には「ダノンウエイ」というCSRが、オムロンには「企業の公器性」のCSRがあり、キヤノンには「共生」というCSRがある。このような企業はCSR戦略を日常業務のなかで自然と遂行することができるようになっている。企業理念、ビジョンがCSRと関連しない企業は、単にCSR部や室を作るだけではCSRを遂行するのが難しくなる。「どのようにCSRを導入してよいか分からない」と相談を受ける企業の大半がこれに属する。このような企業の場合は、社長が先頭に立ちCSR遂行のための社内改革が必要となる。富士ゼロックスの小林会長は企業の先頭に立ちCSRを推進しているが、「CSRは経営者の仕事である」と公言している。

CSRのISO化が2009年より発効する。企業理念の見直し、または新構築、それに基づいたビジョンの策定が求められる。企業の存在目的と方向を示す創業精神を表現する企業理念の重要性を認識することが大切である。

キヤノンでは創立50周年を記念して今から約20年前に「第二創業」の企業理念として「共生」というCSRを当時の賀来龍三郎社長が制定した。この理念をキヤノンは経営と現場レベルで遂行しており「共生」に誇りを持ってビジネスを行っている。キヤノンの企業戦略がCSR戦略である所以(ゆえん)はここにある。企業理念とCSRの関係はこのようなもので、CSR部や室を作ればよいという話ではない。CSRは企業の明暗を分ける戦略で、社会への適合戦略であるからだ。

CSRには5つの責任がある。先ず企業本来の責任「安全で良質な製品の提供である」。今、偽装や欠陥商品が問題となっている。2番目が企業倫理である。倫理がなくなると社会は成立しない。倫理は法令よりも高レベルの話である。企業倫理の順守はビジネスマンとしての大切な基本行動である。3番目が法令順守である。違反しなければよいとか、法令の抜け道を探す企業があるが、このような企業は結局法令違反を犯すことが多い。4番目が環境に対する責任で、地球温暖化対応は最大の課題で、有害物質の排除なども大きなテーマである。5番目が社会への責任で、地域社会とステークホルダーへの対応である。これは企業の利益を調整しステークホルダーに公平な分配に配慮をすることである。従業員への報酬、取引先の利益への配慮、社会貢献、障害者雇用、弱者への支援、バリアフリー、ユニバーサルデザインなど様々な要素を包含している。

CSRとは以上の社会的責任による「良き市民企業」としての社会への適合戦略で、社会の流れを読み、どのように判断をするかで企業の価値に大きな差が出ることになる。

トヨタは企業本来の責任と環境・社会への対応として、安全で良質なハイブリッドカーを開発した。経費はかかったが、覚悟をきめた投資だからこそ成功した。CSRはコストよりも投資と考えたほうがよい。車の将来は環境技術の対応で決まる。そこで、ハイブリットシステムの搭載車両を大幅に拡大、さらにディーゼルエンジンの性能の向上、燃料電池車の開発、脱石化燃料の開発などに力を入れる。これらを総合的にまとめたメーカーが生き残ることになる。これはまさに社会への適合戦略であり、CSR戦略である。

CSRの遂行度合いが高ければ社会からの信頼も強くなる。信頼はビジネスに大きく影響をする。営業力、質の高い製品を製造する従業員の力は財務指標のどこにも表現されない企業の大きな資産である。

トヨタは社会的側面の企業価値の重要性を強く認識している。CSRは社会的側面の価値を高め、それが経済的側面の価値も高めることになる。この重要性に気がつくことが大事である。経済的結果は社会への対応結果得られるものである。CSRが強い企業を作るのはこのような理由である。CSRが強い企業を作るのはこのような理由である。CSRの視点から検証することにおいてトヨタのみならず、企業の強さと将来の価値を判断することができる。

これらは拙著「トヨタのCSR戦略」(生産性出版)の主旨であるが、CSRの視点から見ると企業の存在理由が社会に対して説明できない企業が多いことが昨今の問題といえる。