佐久間健の執筆活動



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新聞寄稿(埼玉新聞 2005年9月5日)

埼玉新聞「オピニオン」

『災害時の安全と安心の確保は正確な被災地情報収集と伝達による』

このところ震度5前後の地震が相次いでいる。私は総務省の大規模災害時の「初動時における被災地情報収集のあり方に関する検討会」に危機管理の専門家として参加した。中越地震の時、通信途絶と道路寸断等で孤立状態になり、初動時の情報収集活動を展開することができず、この問題をどのように解決をするかがこの検討会の設立理由である。検討会は五月から七月まで計六回開かれ、旧山古志村への現地視察も行い、精力的に議論を交わし、政府および地方公共団体等へ提言を行った。提言の骨子を要約すると次のようになる。

 @高度情報通信技術だけに頼るのではなく、非常電源の整備および保守点検、通信訓練の実施、通信設備の耐震対策の徹底等、災害情報通信機器が非常時に的確に作動するよう対応することA人・既存ネットワーク等の新たな活用による情報収集。消防団の機能別団員の「災害出勤により、情報提供・収集を主体とした活動」を推進。アマチュア無線団体の災害時支援の促進。情報収集や通信体制を担う職員等の充実および連携等。消防機関での情報収集が困難な場合、ほかの防災関係機関の通信システムを活用できる仕組みの構築B衛星携帯電話による被災地情報収集C今まで不可能だった夜間のヘリコプターによる情報収集やヘリコプター衛星通信による情報収集D航空機搭載映像レーダーによる情報収集E危険な地域の場合は無人航空機による情報収集F最先端IT等の活用による情報収集―これらの取り組みを地域防災計画の中で位置づけを具体化する。

 ここで大きな課題が一つある。それは情報収集した事実が正しく伝わるかである。実際は事実を被災者に正しく伝えることは決して簡単ではない。原因は二つある。一つは事実を把握した関係者が隠蔽(いんぺい)したり、事実を歪曲(わいきょく)したりすることである。二つ目は広報の教育がされていないことにより事実の伝達が正確にできないことだ。被害地はパニック状況にあり事実を事実として伝えることが非常に難しい。訓練されていない情報伝達者は災害時の心理パニックをさらに拡大することになる。情報収集と伝達に当たっての基本姿勢は、市民・社会の視点で情報収集を行うことで、この訓練を厳しく行うこと。

 最後に提言がある。自治体は災害に対しての復旧計画を事前に持ち、災害により中断した行政サービスを素早く回復すべきである。行政サービス継続管理といわれる危機管理である。この計画があると回復への判断とスピードが大きく違ってくる。計画を立案するには、災害により起きるリスクの事前チェックと行政上のリスクの棚卸しが必要となる。庁舎、施設、行政サービス、情報システムそのほかについて細部にわたり、どのようなリスクを抱えているかである。あるリスクがほかのリスクに連鎖的に作用しどのようなリスクが発生するかまでシミュレーションをし、回復の時間的なスケジュールを組み込んでおく。いつまでどの程度復旧できるかを事前に計画しておくと、災害の状況によりそれぞれ優先順位が即座に決定できるのである。そのために復興をスピーディーに行える電源、情報通信機能などの回復は最優先事項である。