佐久間健の執筆活動



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新聞寄稿(埼玉新聞 2004年3月31日)

埼玉新聞「標点」

企業が社会的責任果たす時 『何が正しいかに基づいた精神で』

私は昨年夏に、スイスのコーというレマン湖を望む小さな村で行われた国際会議に参加をした。会場はお城のような建物で、普段はホテル学校だが、夏は休みになり、世界中から様々な人々が集まり、対話と議論の場となる。私が参加した経済人コー円卓会議もそのひとつで、企業の社会的責任に関して、経済人、学者、宗教家、コンサルタントなどにより熱い議論が交わされた。ホテルの運営は、元首相も大企業のオーナーも一緒にボランティアで行われる。

実はこのホテルの大広間で、第二次世界大戦後の独仏の和解が行われた。その時の議論の哲学が「誰が正しいのかではなく、何が正しいのかに基づき議論と対話を行うこと」でコーの精神と呼ばれている。この精神が独仏の和解を進め、さらに欧州石炭同盟、EC、EUへと前進させた。

世界的なNGO、IC(イニシアティブ・オブ・チェンジ)はこのコーを本部として八十数カ国に支部がある。戦後日本の政財労の指導者がICから招待され若き中曽根元首相も参加した。ICはコーの精神に基づき、宗教、社会文化の違いを乗り越え、世界の紛争解決に活躍している。実は、日本企業の労使紛争にも貢献してくれた。

今世界的な対立と自己主張の中で、コーの精神に基づいて考え、議論をすれば世の中少しは前進するのではないかと思う。私が関係する経済人コー円卓会議は、日米欧(オランダのフィリップス氏、キヤノンの故賀来龍三氏など)の経済人により、貿易摩擦の解消のために設立され、コーの精神で、ガット、WTOに積極的な提言を行ってきた。それが一段落した一九九四年に、企業が抱える問題解決の方向を示す「企業の行動指針」を発表し、企業の社会的責任(CSR)を初めて提唱した。これは経団連を始め、世界各企業の経営理念の参考にされている。CSRは、企業の利害関係者の対話の精神があって可能となる。今年はCSR元年といわれ、欧州憲法にはこれが盛り込まれる。日本企業にもCSRが大きなテーマであり、いよいよ本格的に取り組む時が来た。