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- 佐久間 健の執筆活動 : 新聞寄稿(埼玉新聞 2003年12月19日)
今年の企業危機の大きな特徴は、工場などの大きな火災事故が多発したことである。新日鉄名古屋製鉄所、ブリヂストンの栃木工場の火災、苫小牧の出光興産のタンク火災、このほか相次いで事故が起こり、社会的な問題となった。事故を起こした企業の共通点がいくつか指摘できる。
第一は、日常の危機管理の在り方の問題である。リスクの点検と対応プログラム、そしていざという時の訓練がどの程度行われていたかである。第二にリストラなどでリスク管理のベテランがいなくなり、リスク管理の知識、ノウハウが次世代へ伝承できていないなどの人災的な事故である。過度の経費削減は逆に大きな損失につながることが多い。
第三に自社の都合、常識に基づいた間違った危機管理意識と体制である。社会の常識、市民の視点での危機管理に欠けていたことである。事故を起こした企業は、企業の社会的責任をどの程度自覚していたかである。企業の社会的責任とは、企業が社会との関わりにおいて自主的に負う責任であり、社会の構成員である、消費者(顧客)、従業員、株主、取引先、地域社会などに対してより具体的な責任を持つことである。事故が地域社会に与える不安への対応、顧客、取引先への責任、従業員の生活への保障、このように企業の社会的責任に基づいた危機管理がされていたかどうかである。経営とは自社のビジョン実現のために社会が受け入れてくれる企業活動を行うことである。
昨年、PWCというコンサルタント会社が世界の約八百名の経営者に行った調査では、約70%が企業の社会的責任を果たすことが利益と密接に関係すると回答している。自主的な社会的責任の遂行は、市民、地域社会の支持を得ることができるからである。単なる利益追求型の企業は生き残ることが難しくなってきた。日本の先進企業もこのことに気づき、企業の社会的責任に基づいた経営に着手し始めた。社会から受け入れられた企業は強いのである。